増打ち梁 -小倉東高校-

鉄筋コンクリート造の建物の耐震補強として、外付けブレースの設置・内付けブレースの設置・耐震壁の新設または増打ち・耐震スリットの新設・梁の増打ち・柱の炭素繊維巻などがあります。

ここでは、小倉東高校において施工した工程に沿って、梁の増打ちについて紹介します。

梁の変形に抵抗する要素として、寸法はb×h3乗という形で式の中に現れます。
ここで、bは梁の幅、hは梁の高さです。
高さの3乗で抵抗するということは、梁の高さが2倍になれば、たわみは1/8になります。
ただし、重ねただけ等ではダメで、梁全体が一体的に変形するようにしなければなりません。
たわみ

この様に重要な要素である梁の高さ(梁せい)を増すことで、変形を少なくするのが梁の増打ちによる耐震補強です。
今回は、既存の梁にW200×H500の増打ちを行いますが、下図の様に下300mmはコンクリート、上200mmはグラウトで施工します。
これは増打ちとして一般的な形で、全体をコンクリートとするとコンクリートの収縮により既存梁との間に隙間が出来るために、先にコンクリートを施工し、梁と接合する上部は無収縮モルタルであるグラウトを圧入し既存梁と一体的な増打ちとします。
模式図

モルタル撤去RC造の場合、周囲をモルタルで覆っていることがあります。構造体であるコンクリートと増打ち梁を直接つなげる為に、表面のモルタルは剥がしておきます。

撤去完了必要な箇所のモルタルを撤去し、グラウトとの接着が良いように表面をデコボコにする目荒しを行っています。

既存梁にアンカー筋を施工することで、増打ち梁と一体とします。使用材料のアンカー筋と、接着剤のカプセルです。孔の深さに応じて、使用するカプセルのサイズが3種類あります。サイズの違いは接着剤の量で、単純に、深い孔には多くの接着剤が必要だということです。
アンカー筋カプセル

鉄筋マーキングアンカーを施工する為に躯体に孔をあけるのですが、孔が既存の鉄筋に当たらないように鉄筋探査機で調査します。しかし、全ての鉄筋の位置がわかるわけではないので注意が必要です。写真ではわかりにくいですが、探査した鉄筋の位置を赤いチョークで示しており、そこを避けてアンカー筋を打つ場所を決めています。

孔をあけてカプセルを入れ、アンカー筋を打設します。アンカー筋がカプセルを割ることで、中の接着剤が出てきます。
アンカー打設

施工が確実に行われた事を確かめるために、2種類の検査をします。
左は打音検査、打込んだアンカー全てをハンマーで叩きます。キチンと施工されていれば高い音が出ます。
右は引張試験。既存のコンクリート躯体の強度、アンカー筋の引張強さ、接着剤の接着力の3つの中で、一番弱いものからアンカーの引張強度を定めます。その引張強度の2/3以上の力を掛けても問題なければokです。こちらは、一日に打設したアンカーから径ごとに3本引っ張ります。つまり、昨日D22を50本、一昨日D19を50本施工の場合はD22とD19を3本ずつ、昨日も一昨日も、D19とD22を共に25本ずつ施工した場合はそれぞれ2日分の6本ずつとなります。
打音検査引張試験

アンカーが図面通りの間隔で、必要な本数施工してあるかを記録します。
ピッチ検測

アンカー筋が施工できたら、鉄筋を入れ、端部には割裂防止のスパイラル筋を廻します。
配筋スパイラル筋

型枠配筋検査片壁が立ったところ。白い輪っかは通称ドーナツ。かぶり厚を確保する為に一定量入れることが決められています。この段階で、配筋検査を受けました。両壁を立てると中が確認出来ないことと、型枠と鉄筋との距離であるかぶり厚の確認は、配筋検査の中でも重要なので、検査はこのタイミングとなります。

コンクリートの打設。わかりにくいですが、手前の職人さんはバイブレーターで締固めています。中央の黒い管がポンプの配管で、写っていませんが奥の職人さんがポンプを持って枠内にコンクリートを流しています。生コンは刻一刻と変化するので、打設作業は息つく暇もありません。その為、工程写真もアングルや写りなどの見栄えを気にする余裕がなく、良い写真を撮るのは難しいです。
CON打設

打設も終わり、所定の日数養生した後に脱枠。上部のグラウトが入る前の珍しい姿です。グラウトとは、無収縮モルタルの事で、名前の通り収縮がないモルタルで、強度もかなり大きくなります。グラウトは水の様と思うほど流動性が大きく、ポンプによる圧入で隙間なく施工します。
CON完了

Jロート施工する直前に、Jロート試験を行います。使用する水の温度と量でグラウトの流動性が変化するので、適正な水温水量かを調べるのが趣旨です。気温水温水量を記録し、Jロートと言う器具に詰めたグラウトが全て流れ落ちるまでの時間を計測。2回の平均が6秒から10秒であれば適正です。また、水和反応によりグラウトは発熱しますが、混ぜた直後の温度が35度以上であれば品質に問題が出来るために30度以下での施工が推奨されていますので、練上がり温度も記録しておきます。夏場は使用する水を冷やすことで、練上がり温度が上がり過ぎないようにする等の処置をします。

グラウト圧入状況。わずかな隙間から漏れ出るので、発泡ウレタンで隙間を塞ぎます。緑色のやつですね。また、圧入の圧力で枠が弾けないようにシッカリと固めています。奥に透明なチューブが伸びていますが、これが空気とグラウトの逃げ道となります。ここにグラウトが上ってくれば、枠の内部は空気を追い出してグラウトが充填出来ていると確認できます。
グラウト圧入

グラウト圧入も終わり、脱枠。上部200mmがグラウト、下部300mmがコンクリートの増打ち梁です。後は塗装して仕上がりです。
壁出来形

完了しました。中央の2スパンが増打ち部。両端と比べると梁が下方に伸びているのがわかります。
完了

以上、増打ち梁の施工の流れでした。

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